アメリカの専門家はアベノミクスをどう評価しているか

先日、「安倍政権辞任や安倍政権の経済政策(アベノミクス)を海外はどう見ているのか」というご質問をいただきました。

アメリカ・ワシントンDCの名門シンクタンクCSIS(戦略国際戦略問題研究所。CSISは、Center for Strategic and International Studiesの略)が、安倍首相辞任やアベノミクスの総括についての興味深い記事を書いていたので、ご紹介します。

CSISは、アメリカのシンクタンクの中でも国際問題に大きな関心を寄せていて、「ジャパン・チェア」を置き、日本の専門家が多数います。

CSISでは安倍首相はじめ大臣や議員が訪米時に度々スピーチを行い、小泉進二郎環境大臣がかつてアメリカ留学後にCSISで客員研究員をとして所属していたこともあるなど、CSISは日本の政界とも太いパイプがあります。

今日ご紹介する記事を書いたのはMatthew P. Goodmanという、アメリカ財務省出身で、オバマ政権下でホワイトハウスでの要職を務めた人物で、1988年から1997年まで東京の米国大使館に勤務していた親日家でもあります。

そのGoodman氏は安倍政権への手厳しくも率直な評価をしています。

Goodman氏によると、「安倍政権の政策の取り組みは、残念ながら多くが失望に終わり、日本経済を停滞から抜け出すことができなかった。安倍首相がもくろんでいた憲法改正もできず、東アジアは政治的緊張が解決されないままだった。安倍首相の歴史に残るであろう功績は、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)を主導しアジア太平洋圏の貿易貿易体制を整えたこと」。

また、アベノミクスについてはもこのように同氏は評価しています:「アベノミクスは国内外に浸透していた政策ではあったが、その効果はバラつきがあるものに終わった。アベノミクスの「3本の矢」(金融政策、財政政策、成長戦略)のうち金融政策に関しては、黒田東彦総裁を任命することで日銀が大規模な金融緩和を行うことができたことは特記すべきこと。財政政策については、景気を良くするための大規模な政府支出を行ったが、2度の消費税増税の際の手法が稚拙だったことから経済への打撃も大きく、財政支出の効果を薄めてしまった。最も失望が大きかったのは構造改革や成長戦略の分野で、日本の中長期的な成長を引き上げるような政策への取り組みは芳しくなかった。」

環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)については、Goodman氏は「大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TPP)にむけた国際的議論があった時、安倍首相は日本国内の農業従事者などからの反対を押し切って、当初からTPPへの参加を明確にしていた。その後でアメリカのトランプ政権によりTPPが頓挫した後、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)に尽くしたことは非常に大きな業績だった」と述べています。

2020年8月末に安倍首相が辞任を表明してからも、日本では安倍政権の実績について好意的な見方が多いようですね。

他方、今回ご紹介したCSISはアメリカ企業を中心としたクライアントに向けて情報発信しており、CISIの中でも屈指の日本専門家であるGoodman氏は日本の政権に忖度することなく率直な評価を行っていますので、非常に参考になるかと思います。

原文はこちらから見ることができます。