最大の試練とは?コロナ渦から抜け出すために

コロナウイルスへのワクチンを世界中で行き渡らせるに際して、人類が直面する「倫理上最大の試練」とは何でしょうか。

それは、先進国意外の住民や社会的に弱い人たちにも、どのようにワクチンを公平に行き渡らせるか、ということです。

パレスチナ難民の医療問題に尽くしてきた日本人

私が住むヨルダンに、「清田先生」と呼ばれ世界中の人に親しまれている、パレスチナ難民の健康のために長年尽くしてこられた日本人医師・国連職員がいます。

私が清田先生にお会いしたのは、在ヨルダン日本大使主宰のレセプションでした。先生は、気さくなお人柄で、かつ医師および国連職員として優れた方で、世界中の人、特にパレスチナ難民への国際援助の関係者からとても尊敬されています。

ヨルダンで、清田先生は、国連パレスチナ難民救済事業機関保健局長として、多くのパレスチナ難民の健康や医療制度の改善に尽くしてきました。

パレスチナについて

日本では「パレスチナ」について馴染みのない方も多いかもしれませんが、パレスチナとは、地中海に近いアラビア半島の北にあるヨルダン川(イエス・キリストが洗礼を受けた聖なる川として知られています)の西側の地域で、エルサレムやベツレヘムといった歴史的な年を含む一帯の総称です。何千年もの間、パレスチナでは稀有な歴史や優れた文化が形成されてきました。イエス・キリストや聖母マリアも、パレスチナの地で生まれ育ったという意味では、パレスチナ人でした。

20世紀半ばからイスラエルの建国・占領や戦争を経て、元々そこに住んでいたパレスチナ人の多くが難民として国外に出て行きました。パレスチナ自治区(ウエスト・バンクおよびガザ地区)にはまだパレスチナ人が住んでいますが、イスラエル人の入植が進むにつれて、そこに住むパレスチナ人の数も減ってきています。

ヨルダンはパレスチナと隣接していることから、パレスチナ難民やパレスチナ系住民を多く抱えています。

倫理上最大の試練:ワクチンを公平に行き渡らせること

ヨルダンでパレスチナ難民の健康に尽くしてきた清田先生が、最近、朝日新聞に寄稿し、先進国で行き渡りつつあるワクチン(コロナウイルスへのワクチン)を途上国の人や難民などの社会的弱者にも公平に行き渡らせることの重要性について話していました。

その記事で、長く続くコロナ渦の希望であるワクチン接種が途上国でも始まっているものの、途上国での接種の広がりは先進国よりも格段に遅いこと、そして、感染対策には(先進国ばかりではなく)途上国にも公平に配付することが必要であり、それは「倫理上最大の試練」と論じています。

真の感染対策のために

社会的に弱い人にもワクチンを行き渡らせなければ、真の感染対策にはならないのです。それは、例えば、ブラジル発祥の感染力の強いコロナ変異種が世界中に飛び火しつつあるという事などからも、明かです。ブラジルや南アメリカなどからの変異種が既に多くの国に入ってきて、更なる感染増を招いています。

残念ながら、途上国・新興国の貧困層や難民が住むコミュニティーでは、多くの人が狭い中で暮らしソーシャルディスタンスを取ることが難しく、衛生状況も良くなく医療制度も整っておらず、コロナ感染に耐性の低い人も多いのです。

いずれにせよ、ワクチンがなるべく早く、それを必要とする人に行き渡ることを願ってやみません。

それでは。

上述の清田先生の投稿記事はこちらです。

以下は、朝日新聞からの引用です。

※※※ 引用開始 ※※※

(私の視点)新型コロナのワクチン 難民・弱者、公平に接種を 清田明宏

新型コロナウイルスのワクチン接種が、世界各地で進んできている。長く続いていたコロナ禍の中でようやく見え始めた希望、その恩恵を世界中の人々が待っている。

 その一方で、途上国へのワクチン接種は進んでいない。米国や中国などの10カ国が世界中のワクチンの75%を使用しているのが現状だ。各国の政府が自国民への接種を進めるのは当然だが、感染対策には公平なワクチン接種も必要だ。グテーレス国連事務総長は、国際社会にとっての「倫理上最大の試練」だと強調した。

 こうした不公平の影響を受けている地域に、多くのパレスチナ難民が暮らすヨルダン、パレスチナ、レバノン、シリアがある。シリアを除いて接種は始まっており、各国が定めた優先接種の順序に従って難民も接種を受けている。ただ、接種の広がりが非常に遅い。

 最初に難民への接種が始まったヨルダンでも、開始後1カ月の接種率は全人口の0・5%。ガザでは2月半ばに千人を対象に接種が始まったばかりだ。ワクチンが不足した場合に、難民など社会的弱者が接種対象から外れる危険性は絶えずある。

 もちろん、国際社会が不公平を甘んじて受け入れているというわけではない。公平な配布を推進するため、Gaviワクチンアライアンスや世界保健機関が中心となって、昨年9月につくったのが「COVAXファシリティー」だ。COVAXにはワクチンを共同購入して途上国などに配布する枠組みがあり、日本も参加し、途上国への配布用に1億3千万ドル(約134億円)以上の拠出を表明している。

 ただ、COVAXだけでは高いワクチン接種率は実現できない。現在のCOVAXの目標は全人口の2割だ。この数字には、感染危険の高い医療従事者や、重症化の危険が高い高齢者・基礎疾患保有者への接種を可能にして、死亡者増加・医療システムへの逼迫(ひっぱく)を予防するという明確な背景がある。それでも、2割という接種率は低い。

 世界全体で公平なワクチン接種を進めること、そして難民のような社会的弱者にもワクチン接種を行うこと。その実現が火急の課題だろう。新しいワクチンが先進国で最初に使われ、途上国には後で配布される例は過去にもあった。それを繰り返してはならない。全ての人がワクチン接種を受けない限り、誰の安全も確保されないからだ。

 国連事務総長が言うように、我々国際社会の真価が問われている。日本にもこれまで以上の協力を期待したい。公平かつ、なるべく早い接種の実現を目指して。

 (せいたあきひろ 国連パレスチナ難民救済事業機関保健局長)

※※※ 引用終わり ※※※